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 国土回復リスボン  ガメイロ画『図絵 ポルトガルの歴史的局面』
Conquista de Lisbon , Gameiro, A Iustracao : Quadros da Historia de Portugal.
 1147年ポルトガルの初代国王アルフォンソ一世は難攻不落のリスボンを攻囲し、イスラム勢力から400年ぶりにこれを奪還した。ムーア人が遺した山頂の城砦を基に、まもなく広壮なサン・ジョルジェ城が築かれ、16世紀初頭までそこに王宮が置かれた。
    下は同じくガメイロに描かれた16世紀のサン・ジョルジェ城。
    A Alcacova ou Castelo de S. Jorge. Gameira Historia da
    Colonizacao potruguesa co Brasil.



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       神の怒り その1
   『新約聖書 ヨハネ黙示録』第3章
 汝らは自負せり。己れ資産に恵まれ、財富を
築き、満ち足れり、と。かくして汝ら顧みざるは、
不幸なる人、憐れな人、貧しき人、さらには視力
のない人、衣帯に欠ける人である。愛する汝らに
我これを戒め、これを懲せむ。ただちに励みて
悔い改めよ!
 
 L'Apocalypse, La Bible de Jerusalem, Paris, 1973
【第488項】
 沢山の修道女と聖職者が荒墟のなかを巡回し、ときには礼拝の式服ですべての死せる者生きる者の赦免を行い、神と聖母の慈悲を哀願した。他の地域では罪人が悔悛と贖罪に導かれる。世俗の人たちもあちこちで教えを説いた。婦人や田舎者さえ説教師に変身したのである。だれもが神の怒りを怖れ、王都とわが身の最終的な破局に怯えた。神への畏敬を説く一言一句も無益ではなかった。なぜなら、沢山の罪を反省し、素直な心には涙が溢れたからである。 新たな震動と火災のなかで悔悛の情が各人に俗事を忘れさせた。断罪の恐怖で体は震え、神の慈愛を求めて心は燃え、繰り返し溢れる涙で息も窒まるようである。再会した人たちは会釈してたがいに赦しを求め、それまでの対立と憎悪を解いた。こうした態度を採らず、いわば憂き世の災難としか思わぬ者もいた。しかし、多くの異端者が己れの迷妄を恥じらい、恩寵のもとで新たに生まれた。
     図説 リスボン大地震通覧 II           モレイラ・デ・メンドンサ著『世界地震通史』と往事ポルトガルの絵図

テント小屋で避難するリスボン住民 (リスボン市史料館所蔵)Refugiados da cidade acoampados .Alemanha, séc XVIII?
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 【第490項】
 最初の夜から悲痛な叫び、絶えざる衝撃、続発する地震へ恐怖、かつまた王都のほとんど全域を襲う火災がすべての人々の艱苦を倍加させ、財産の欠如と父母の喪失を痛感させた。大半の家族が引き離され、頼るすべもなく泣き続ける。かくも多くの苦難に耐えうる人だけが、神意により救われると思われた。
 【第491項】
 火焔は家々を焼き続け、地震も衰えを示さない間に、不遜な盗賊は神をも炎をも怖れず、侵入した邸宅で金銭、宝石、衣類を掠奪した。地震でも家が崩れず、火災の被害も受けぬ多くの家族が、盗難によって文無しになった。これらの多くはガレー船を科せられた罪人や牢獄から脱走した囚人に帰せられる。
 【第492項】 
 火災の連続と地震の続発によっても、私たちは祖国と国土への愛を忘れなかった。神は罪人の赦免を望まれ、魂の救済のため大地を示された。王国のあらゆる都市、町村、地域にいる近親や友人を求めて、その土曜日多くの人々が歩き続けた。以後幾日も悩める旅人が街道に溢れる。近郊の野に留まる人々は、豪華な寺院、壮麗な宮殿、神聖な殿堂、さらには宝石、調度、衣装など多くの富が炎上するのをときには目のあたりにした。

 18世紀のサン・ジョルジェ城は一部廃墟と化していたが、教会、修道院、福祉施設とともに、リスボン市の関係機関も置かれた。モレイラ・デ・メンドンサが所属した古文書館のそのひとつである。1755年地震と津波に襲われた民衆は瓦礫の坂道を登って、城内の広大な庭園に続々と蝟集する。彼らは城壁から市街の倒壊・氾濫・炎上を見詰め、大樹や遺蹟のもとで幾週も野宿した。

大火に襲われたリスボンの全景(リスボン市史料館所蔵) Vista panorâmica de Lisboa devastada pelo fogo, Alemanha, séc XVIII ? 

 【第485項】
 最初の地震のあとすぐにルリサル侯爵邸、サン・ドミンゴ教会、サン・ジョルジェ城の福祉施設などから火の手が昇り始め、建物の灼熱と火焔が材木に移った。かくして災厄は倍加し、惨事が一層深刻となった。血に塗れた人も虚弱な人も多くは荒墟から逃れたが、重病で寝たきりの患者は、そのように脱出できなかった。瓦礫によってあまたの生物も四肢を砕かれたり、板挟みとなり、逃れようと喧噪に鳴き続ける。これらすべてが炎に焼き尽くされた。語りえないほど凄惨なのである!
 【第486項】
 震動は数時間毎に繰り返し、激しさは減じたものの、同じような脅威を感じさせた。かくも激烈な地震によって大地が割れるのではないかと人々は恐れた。サン・ジョルジェ城へ火の手が迫るや、流言が飛び交った。 城内に蔵される火薬に引火し、王都全域を脅かして、地震を免れた人をも焼死させると言うのである、怯えた心は理性的に思考できず、震えた呼吸と慌てた歩調で王都から1レガ、2レガ、3レガ離れた地点へと連夜歩いた。
 

『オクスフォード黙示録』Oxford Apocalypse, about 1272.

 聖書では地震、洪水、干魃などの災害は人類の豪奢、驕慢、遊惰を誅する懲罰とされ、
とりわけこれを予言した『ヨハネの黙示録』は中世以降さまざまな教典や絵図で敷衍された。

荒墟における被災者たちの祈祷 (リスボン市史料館所蔵) The destruction of Lisbon by an earthquake 1755, London, 1817.

 【第493項】
 私はこれらの災害の目撃者である。自宅で最初の震動に襲われ、眼前で庭も崩れたが、神の慈悲で自分は救われると感じた。家族すべてに傷害はなく、被害を免れた自宅にしばらくいた。サンタ・バルバラ緑地へ行くと、主キリストの慈悲と聖母マリアの加護への祈りが続けられ、私は深く感動したが、祈祷に没入できなかった。数千人が暮らし、数名の神父も住む地域を、サン・ジョルジェ城炎上の恐怖が無人にしたのである。城郭には市会議所の資料保管室もあって、地所に関する重要文書1万600件が蔵され、それらを保管するのが私の大切な職務であった。 危急の際そうした書類を防備するため、建物の門口を離れてはならなかった。少数の人たちの協力を得て、そこで最初の数日を過したが、惨禍と脅威しか見えず、悲鳴と号泣しか聞えなかった。

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5/通覧II

3/通覧II

2/通覧II

1/通覧II

本稿の画像の説明において、括弧内に誌されたFLICKER などの英字はこれらの
オンライン提供元である。なお、SELFと付記した写真は筆者自身が撮影した。

サン・ジョルジェ城とその城下町 Castelo de S. Jorge by Henry Winckles, 1819 ?

【第487項】
 こうした流言は幾人かの悪者に帰せられる。 豪奢な邸宅で掠奪できるよう、無人の巷にすることを企てたのである。彼らの強欲から広汎な衰弊が惹き起された。なぜなら、若干の地域では火災を阻止できたのに、被災のない者さえ、すべて見棄てたからである。邸宅が焼け崩れても、命だけは護ろうと、富裕な王都の住民は多く思案した。

(右上)テージョ河畔に位置するベルン離宮。地震による内部の
破壊は甚大であったが、建物全体の崩壊は免れた。
現在の大統領官邸である。(FLICKR)
(右下)仮設御所の敷地に後年建造されたアジューダ宮殿。
門前は庭園は広い緑地の面影を留め、ベレン河港を眺望できる。
(JEITOARTE)

 【第489項】
 国王陛下とご一家はベレンの離宮にいて被災を免れて田園へ避難され、そこに建設された立派な仮設御所で数ヶ月生活された(マヌエル王子だけはネセシダデス宮殿に住んでおられた)。こうして造られた広壮なアジュダ宮は、壮大で完璧で木造とは思えないほどである。これら高貴な方々の安否を気遣う人々は、国王ご一家の危機離脱を知ってみな喜びに耐えず、リスボン艱苦の当日愛する者や信頼する者とその喜悦を分ち合った。

ベレン河港における人々の散策と宏壮なサン・ジェロニモ修道院 アンリ・レベック画(リスボン市史料館所蔵 )
Vista do convento de Sao Jeronimo de Belem por Henri L'Eveque


震災を利して悪漢は、邸宅の財貨を掠奪し、死傷者の所持品を剥ぎ取った。
Looters, robebers, and worse in Latino Coelho,O marquez de Pombal..Portugal, 1905. (KOZAK)

ZDF enterpries

 国王ジョゼ一世と王妃マリアナ・ヴィクトリア。
 Rei Jose I e reinha Marianna Victoria(WIkipedia)

 
大地震発生のとき国王は 35歳で即位 5年目であった。また、直後にマリアナ王妃が実家のスペイン王室に宛てた書簡は、女性の筆で綴られた貴重な被災証言のひとつである。

リスボン随一の名勝サン・ジョルジェ城。その広壮な城郭と美事な展望(SELF)

6/通覧II

4/通覧II